本当に老人ホームか必要なお年寄りが施設に入れなくなってきている。
なぜ、[寝たきり体験]なのか?老人病院に入院したり、「寝たきり・オムツ体験」をする私は、読者の皆さんの目には変人と映るかもしれない。
しかし、私かこんな体験をせざるを得なかったのには訳がある。
前著のなかで私は、日本の老人ホームや老人病院での実習ルポを紹介させてもらった。
なぜ、オムツに頼らねばならないのか?なぜ、雑居部屋なのか?なぜ、痴呆性老人はベッドに縛られるのか?という疑問と怒りがまず湧いてきた。
しかし、しかしである。
現場で腰痛に苦しみながら汗を流しているスタッフの苦労を知れば知るほど、私の考えは変わっていった。
こんなにキツイ仕事とは。
お年寄りとゆっくり話す暇もない。
トイレ誘導なんか、一人ひとりする暇がない。
雑居部屋じゃないと効率的にお世話できない。
気がついてみれば、「人手が少ないんだから、いまの現状は仕方ない。
痴呆性老人がベッドに縛られるのも仕方ない」と感じるようになっていた。
しかし、この考えはどう考えても間違っている。
悩み続けるうちに私はひとつの悲しい結論にいきついた。
その結論とは、現状の少ない人手では、介護スタッフとお年寄りの幸せは対立する、両立不可能だということだ。
介護スタッフが過労で倒れないためには、お年寄りが我慢をせねばならない。
逆に、お年寄りの希望をかなえるためには、介護スタッフが過労で倒れてしまう。
原点にもどろう、お年寄りの立場に立って考えよう、と私は自分自身にいい聞かせた。
となれば、介護する側の実習ではなく、入院体験・寝たきり体験・オムツ体験という介護される側の体験にならざるを得ない。
もちろん、たった二、三日の疑似体験でお年寄りの気持ちなどわかるはずはない。
お年寄りはいやいやオムツをつけられ、私は自発的にオムツをつけているのだから。
しかし、お世話する側の立場ではなく、お年寄りの立場でものを考えてみることか重要だと思った。
体験を通して痛感したのは、お年寄りが我慢を強いられ、あきらめているということ。
「外出したい」、「トイレに行きたい」などという自分の希望を述べれば、ただでさえ忙しい職員の仕事がさらに増える。
このことを知っているお年寄りは、もう文句はいわないし、いえない。
でも、福祉や医療の現場では本来、お年寄りの幸せこそが、働く人びとの幸せであるはずだ。
者を支える施設と病院お年寄りの喜びが、同時に職員の喜びになるためには、人手を増やナしかない。
福祉関係の大学や専門学校では、老人ホームでの介護実習がある。
しかし、以上述べたような理由により、私は介護実習だけでなく、寝たきり体験・オムツ体験もカリキュラムとして必要だと思う。
その意味では、「寝たきりはしんどいなあ研修」を実施している「Kホール」は素晴らしい。
ただでさえ、職員さんは忙しく走り回っているのに、福祉をよくするための教育の場として老人ホームの門戸をあえて開放している。
実際、今までに但東町の役場職員は全員「寝たきりはしんどいなあ研修」に参加した。
これは、「役場職員は福祉現場の現状を知っておくべきだ」という福田芳郎町長の発案によるものだ。
「これからの老人ホームは地域に開かれた福祉教育の場でもあるべきです。
一九九四年には町会議員さんに寝たきり研修をやってもらおうと思ってます」と島田施設長は語った。
増える老人保健施設家族での介護かむずかしくなったとき、寝たきり老人や痴呆性老人を比較的すぐに受け入れくれるのか「老人保健施設」という施設である。
ただし、ここは「終のすみか」ではない。
老人ホームよりも、この老人保健施設かいま建設ラッシュである。
一九九三年現在で約七万(八二二施設)あり、二〇〇〇年までに二八万床に増やすことが予定されている。
老人保健施設は、「中間施設」とも呼ばれる。
自宅と病院の中間という意味であり、病院から退院してすぐに自宅に戻れない場合などに、三ヵ月から半年をメドとして、リハビリや看護、自宅復帰の機能回復訓練のために滞在する。
対象は、病状安定期にあり、入院冶療をする必要はないが、リハビリ、看護・介護を必要とする寝たきり老人や痴呆性老人などである。
一九九二年の厚生省の調査によると、利用者の四三・三%が家庭から入所し、五二・二%が病院などの医療機関から来ている。
自己負担は月に六万円程度。
設備的にも老人病院と老人ホームの中間であり、老人病院よりも生活の場に近い雰囲気で、老人ホームよりもリハビリや医療・看護的側面が充実している。
老人保健施設の設置主体の七割強か医療法人で、二割弱が社会福祉法人だ。
入所は、施設に直接申し込む契約型である。
老人ホームが満員で入れない現状においては、老人保健施設は大切な駆け込み寺であることも事実だ。
老人保健施設を利用しながら、そこで家族がプロの職員から痴呆性老人や寝たきり老人の介護の方法を学んで、在宅介護につなげることもできる。
老人保健施設の問題点のひとつは、老人ホームやデイサービスセンターと同様に、地価の高い町のなかに少ないことだ。
老人保健施設が「終のすみか」に?老人保健施設の平均在所日数は、一七六日、つまり約半年である(一九九二年、厚生省)。
さらに、自宅復帰のための中継基地「通過施設」であったはずの老人保健施設から、自宅復帰できたのは五六%で、退所後三二%が医療機関にいっている。
自宅復帰が困難な最大の理由は、在宅福祉の支援の不十分さであった。
「もう半年になりましたから、そろそろ引き取ってください」と施設側がいっても、家族だけの介護力では引き取れなかった。
そのため、老人保健施設には訪問看護ステーションや在宅介護支援センターを併設するところも増えて、「毎週看護婦やヘルパーが訪問します。
また、悪化したらすぐに老人保健施設に入所できます」という安心感のもとに自宅復帰を進める「往復型」も増えてきた。
在宅介護支援センターは、在宅福祉に関する相談業務、問い合わせを二四時間、三六五日無料で受けつける。
ホームヘルパー派遣のあっせんもおこなう。
訪問看護ステーションは、かかりつけの医師の指示にもとづいて、そこから看護婦を派遣し、在宅の寝たきりなどのお年寄りに対して、ホームヘルパーがおこなえない看護行為をする。
具体的には、病状観察、洗髪、床ずれの処置、リハビリテーション、食事・排泄の介助、家族の介護指導などをおこなう。
基本利用料は一回につき二五〇円だ。
厚生省の在宅重視の方針のもと、訪問看護ステーションや在宅介護支援センターが最近増えており、ホームヘルプ、デイサービス、ショートステイとともに、在宅介護をバックアップしてくれる。
一般病院からは三ヵ月で退院を迫られる。
老人保健施設からも退所を迫られる。
ショートステイも1週間程度。
つまり、このようにお年寄りは転々としながら、老人ホームや老人病院のベッドが空くのを待つのだ。
しかし、この転々とする過程が長ければ長いほど、お年寄りは度重なる環境の変化の悪影響を受け、ボロボロになってしまう。
老人保健施設は、一歩間違えばお年寄りのタライ回しの中継基地になってしまう。
「ここに最後までいられたらいいのになあ、とか年寄りにいわれるのがいちばんつらい」とある老人保健施設の職員はいう。
自分の家では、もはや歓迎されない存在であることを感じているお年寄りも多い。
しかし、老人ホームは満員。
でも、老人保健施設からもいつかは出なければならない。
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